Gifu Regional Words

大学の学部時代、私は周囲の人々から岐阜をこよなく愛しているように見えると言われたことが何度かある。決してそのようなことはなく、同級のI君などのほうが余程その程度にいみじきものがあるのだが、まあ彼の意向を酌むというか何というか、要は何となく思いついたものを書き留めてみるのである。

なお、本書では「岐阜弁」に明確な基準を設けなかった。従って、一部局所的にしか用いられない表現や、他の地方の方言も含まれている。この点については、御了承願いたい。

ぃゃあー → ゃあー
うち [名]
「家」の意もあるが、「私」の意としても用いる。中京地区以西では良く聞かれるようである。主に女性、特に若い女性の用いる語。複数形「うちら」「うちんたぁ」としての用例も多い。
えかっ [感動]
「いいか？」の転。念押しに言う語。岐阜の人間にとっては軽い確認のつもりなのだが、「え」にアクセントをおき力を込めて言うため、他県民には非常に悪い印象を与えるようである。
えら・い [形]
「疲れた」「だるい」等に類似する、肉体的苦痛を表現する語。岐阜県民に言わせると、共通語には「えらい」と全く同義な語は存在しない。それほど微妙なニュアンスをもつ語ではあるが、日常会話で多用される。東海地方や山陽地方などで用いられる語。
（用例）今日の体育、持久走やったで（=ダッタノデ）でぇーれー(=トテモ)えらかったわー。
おぞ・い [形]
ぼろい。こわれかけている。
おそがい [形]
広く怖い、恐ろしいという概念を表す語。本来、「おそがい・い」であったものが縮まり、「おそがい」になった。従って、語幹と語尾の区別がはっきりしないようである。
（用例）あの晩、お墓行ったらでぇーれー（=トテモ）おそがいかったわー。
おんさ・る [ラ五動]
動詞「来る」の尊敬語。(参)ござる

か・う [ワ五動]
（専ら鍵を）掛ける。
（用例）ドアのカギかっといてー。
かえし [名]
お釣り。共通語ではもっぱら「○○円のお返しです」と名詞句を作って述語化するが、岐阜では主語として使われることもままある。
（用例）かえし、いくらになった？
かがはい・い [形]
まぶしい。
かしわ [名]
鶏肉のこと。馬肉の「桜」、猪肉の「牡丹」などに対比させて生まれた表現であろう。
かんかな・い [形]
どうしようもない。
かんこう [名／サ変動]
じっくり考えること。ただし、何かを提案した際、相手から「かんこうしとくわ」と言われたら、九分九厘その提案を拒否されたと思って間違いない。体良く断りを入れる表現の一つである。
くろ [名]
隅。端。特に、部屋の角の方を指して言うことが多い。最近の若い世代はあまり使わないようである。
（用例）おい、部屋のくろのほうもちゃんと掃除してっ、えかっ。
けった [名]
自転車のこと。「けったマシーン」とも。東海地方では広く用いられる。「けったくりましーん」の短縮形という説が有力だが、そもそも「けったくりましーん」とは何かが定かでない。なお、原動機付自転車のことは「原けった」と言わず「原チャリ」「原チャ」などという。つまり共通語と同じ。
けったましーん → けった
ござらっせるー → ござる
ござ・る [ラ五動]
動詞「居る」の尊敬語。「ござらっせる」とも言う。
こそぐ・る [ラ五動]
くすぐること。こちょぐる。
こそばい・い [形]
くすぐったい。終止形はしばしば「こそばい」となる。（→こそぐる）
こちょぐる → こそぐる

じいも [名]
里芋。「地芋」の字を充てるようである。
じべた [名]
地面。主に土の地面を指して言うことが多い。比較的全国的に通じる言葉。ちなみに、筆者は小学校１年生の時、運動会で「じべたべったん」という種目（全体でやる棒体操・組立体操みたいなもの）をやらされた。
じん [名]
ひと。人。岐阜では、単漢字で「人」と書いてあれば、通例「じん」と読むようである。
そうまし・い [形]
散らかっている。片付いていない。汚い。
そべつりだ・す [サ五動]
引っ張り出す。整理されていない状態の中からあるものを取り出すこと。
（用例）この靴下、今朝タンスの中からあわててそべつりだしてきたんやて（=キタノダ）。ほんで、よー見ると左ばっかやったんやわ。

たーけ [感動]
「たわけ」の転。比較的強く相手を罵る語。「た」に非常に強いアクセントをおき、「ったぁーけ！」のように発音する。「た」と同時に息を出すため、しばしば唾液が飛ぶ。人を罵る時に多用されるため、比較変化するようである。「どだーけ」「くそたーけ」。
ちょ
「ちょうだい」の短縮形。ものがほしい時、気軽に言うことができる。夕方、八百屋などにいくと近所のおばさんが使っていたりする。
（用例）それちょ。
つうろく [サ変動]
似合っている。ふさわしい。つりあっている。
（用例）あの二人はつうろくしとるわ。
つ・る [ラ五動]
専ら動作の対象を机とする。学校の教室等を掃除する時、机を一時的に部屋の片方に移動させることがあろう。そのとき、机を「持ち上げて運ぶ」動作のことを「つる」と表現するのである。岐阜県では「机つり」と名詞化されるほど一般的な語であるが、東海地方以外の人にはまず通じない。すなわち、共通語の「釣る」には「物を持ち上げる」という垂直方向の動作の意味しかないのに対し、岐阜人が用いる「釣る」には、垂直方向に持ち上げた物を水平方向に移動させるという意味も包含されるのである。
（用例）はよー（=ハヤク）机つりなさーい。
で [接助]
「～ので」の転。種々の形容詞の語尾につき、理由を表すのに用いられる。
（用例）このジャガイモ、冷蔵庫に入れとかんかった（=イレテオカナカッタ）で芽が生えてまったやんかー（=ハエテシマッタデハナイカ）。
でぇーれー [副]
「非常に」という意の連用修飾語。愛知県尾張地方での「どえりゃー」「でら」に対応する。岐阜県で生活していれば毎日のように耳にすることができる。
（用例）岐阜の夏はでぇーれーあっちい（=アツイ）でかんわ（=ノデイケナイ）。
でら → でぇーれー
どえりゃー → でぇーれー

なる・い [形]
炭酸飲料や酒類など、刺激性等のある飲み物を飲んだとき、意図していたものよりその飲料の刺激が弱く感じられることがある。そのようなとき、発せられる言葉。「薄い」「(アルコール分が)弱い」というニュアンスに近いが、ちょっと違うような気がする。
にす・い [形]
（色が）薄い。
（用例）この色じゃにすくて読めへん（=ヨメナイ）。もっと濃くしやー（[→ やー]）。
にすくた・い [形]
だらしない。勇気がない。
ねぶか [名]
ねぎ。特に、長ねぎ。

～まう [助動]
もっぱら完了の意（～シマウ）を示す。過去形「～まった」の形で用いられることも極めて多い。
（用例）昨日宿題やるの忘れてまった。今のうちにやっとかな（=ヤッテオカナイト）、怒られてまう。
まわし [名・サ変動]
準備。支度。「まわしする」の形で、動詞としても用いられる。岐阜でも使うが、尾張の言葉に由来するようである。

やー [終助]
相手が行う行動について、それを勧めたりするのに使う柔らかい表現。行動の為者として自分自身を対象とはしない点に注意。共通語に訳しづらい。強いて言えば「お～なさい」のような形になるが、「やー」には命令のニュアンスはない。次の「ゃあー」と混同しないように。
（用例）これ、食べやー。
ゃあー（ゃー、ゃあ）
岐阜・愛知地方の言葉を特色づける語尾変化の一つ。重母音 [ai] や [ae] は、しばしばこのように発音される。「えらい」は「えりゃあー」、「おまえさん」は「おみゃあさん」。いわゆる「みゃあみゃあ言葉」を形成する音である。
やらし・い [形]
1. 「いやらしい」の転。共通語と同義。
2. 他人から何らかの提案をされた際、人との関係や体面を気にして、渋々その提案を受け入れることがある。その際、「やらしいで」と言うことにより、自分はその提案に消極的賛成をしているのだ、という意思表示が可能となる。説明しづらい語。
  （用例）「トイレ行かへん？」「やらしいでついていったるわ（=イッテアゲヨウ）」
よば・れる [ラ下一動]
（主に食べ物を）いただく。人の家に招待された場合、前提として食事が出されるとわかっている時は「およばれする」という。また、食事が出された時、感謝の意を示す語として、「ありがたくよばれます」と言う。

岐阜地方の方言

あ～おの部

か～この部

さ～その部

た～との部

な～のの部

は～ほの部

ま～もの部

や～よの部

ら～ろの部

わ～んの部